概要
今回は日影規制の概要と自分で確認する方法について記載します。
※前提として以下は共同住宅を建てる場合(特にRCを検討する場合)で記載します。
日影規制とは?
宅建レベルの知識の復習
建築物からできる影が周辺の土地に一定時間かからないようにすることにより、日照環境を確保するための制限です。
目的としては建築物を建てる場合に隣地(特に北側)に長時間影を落とさないようにする規制となります。
宅建試験の勉強の際にこんな表を覚えましたよね?
宅建レベルの知識でしたら、上記用途地域の土地に一定の高さ以上の建築物を建てる際に日影規制っていうのが引っかかってくる可能性がある程度の理解で大丈夫です。
建築基準法
宅建の知識をもう少し深掘りして建築基準法の内容を確認します。
建築基準法第56条の2:日影による中高層の建築物の高さの制限(一部抜粋)
別表第四(い)欄の地域又は区域の全部又は一部で地方公共団体の条例で指定する区域に掲げる建築物は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面からの高さの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲において条例で指定する号に掲げる時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならない。
別表第四(い)欄というのはこんな感じの表です。宅建で覚えた表をもう少し詳しく書いてあるだけです。
宅建でも勉強したと思いますが、上記用途地域のうち地方公共団体の条例で指定する区域が日影規制の対象となります。
先に結論を書きますが、上記表は参考程度の理解で構いません。あくまで地方公共団体の条例でチェックするのが正しい確認方法です。
冬至日というのは12/22日のことです。
真太陽時における午前八時から午後四時までの間というのは実際の時刻の8:00~16:00ではなく、太陽が真南に位置する時間を12時とみなしたうえで、8:00~16:00の8時間に対して影を何時間落とすかをチェックします。正直あまり深く意識しなくて大丈夫です。
平均地盤面からの高さというのは高低差がある地面の場合は高低差の平均値からの高さになります。
1.5mとか4mまたは6.5mと書かれていますがこの値が高いほうが日影規制の影響は受けづらいです。最終的に条例をチェックして確認します。
敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲というのは下記図でいえば内側のピンク線より外側が該当します。隣地境界線から5m以内は日影規制の対象ではありません。
別表第四(に)欄を見ていただくと、敷地境界線からの水平距離が十メートル以内と十メートルを超える範囲の2種類が書いてあると思います。
具体的には下記表に2本のピンク線が引いてあると思いますが、内側の線と外側の線の間(5~10mライン)と、外側の線の外側(10m超ライン)の2種類に一定時間以上影を落とすと規制の対象となります。
上記表に5時間とか3時間とか書いてありますよね?8:00~16:00の8時間のうち5時間とか3時間以上影を落としてしまうと規制対象となります。
地方公共団体条例
日影規制の対象になるかどうかは最終的に地方公共団体の条例で確認します。
「〇〇市 日影規制」とかで検索すると公開されている場合もあると思いますのでそちらで確認してください。不明な場合は役所の建築指導課などに問い合わせて確認してください。
日影規制の確認方法
日影規制を確認する目的は、気になる土地を購入してしまったが日影規制があるために想定していた建物が建たなくなるリスクを防ぐことです。
レベル1
建てたい建物の階数と高さを想定してみて土地の用途地域と照らし合わせてみて、そもそも日影規制の対象になるか否かをチェックします。
※下記高さはあくまで想定です。
例えば一種低層地域は平屋か2階建ての住宅がメインとなると思いますが、2階建ての場合の軒の高さは7mに達することはないでしょうし2階建て以下はそもそも日影規制の対象とはなりません。
近隣商業地域に木造3階建てアパートを建てたいという場合でも、木造3階建ての場合は高さ10m以下に抑えればそもそも日影規制の対象とはなりません。
商業地域に10階建てのRCマンションを建てたい場合でも商業地域はそもそも日影規制の対象とはなりません(北側に下記表の用途地域があって影を落としてしまう場合は別)。
こういったレベルでのチェックはそれほど難しくないので土地購入を検討されている方は必ず行ったほうがいいと思います。
レベル2
建てたい建物の階数と高さを想定してみて日影規制の対象となりそうな場合は買い付けを入れる前に建築士の方にボリュームチェックなどを依頼して日影規制に引っかかるか確認したうえで購入するようにすべきです。
再度書きますが日影規制を確認する目的は気になる土地を購入してしまったが日影規制があるために想定していた建物が建たなくなるリスクを防ぐことですので、多少時間がかかっても確認すべきところはちゃんと確認したうえで購入しないと取り返しのつかないことになります。気になる土地があって買い付け競争に負けたとしても失うものは特にありませんが、想定していた建物が建たない場合の損失は大きいものがあるはずです。
レベル3
気になる土地があった場合に急ぎで日影規制を確認したい場合は自分でCADソフトを使ってチェックすることもできます。
※強引ですが4階建ての1階部分を半地下にして建物の高さを10m以下に抑えて日影規制の対象外にすることもできます。
次にCADソフトを使って日影規制をチェックする方法について記載します。
JWCADによる日影規制チェック
JWCADソフトの使い方については以前ブログで紹介したので割愛します。
隣地境界線から5m-10mラインを引く
JWCADに土地の線を引いたら隣地境界線から5mと10mのラインを引きます。
JWCADの「複線」コマンドを使って隣地境界線を指定してから複線間隔を5000(5m)と指定すれば5mラインを引けます。同様に10mラインも引きます。
5mラインと10mラインの曲線は「面取」コマンドで丸面と寸法を指定して、上記で引いた直線同士を選択すれば書くことができます。
高さ・測定高・緯度の指定
次に建てたい建物の線を引いたら高さの概念を付与する必要があります。
前提として以下の条件で検証します。
「日影」コマンドで建物の各頂点に高さを付与します。今回は4階建て想定で11mとしてみます。
測定高(平均地盤面からの高さ)は地方公共団体に確認して4mとします。
緯度は東京の場合は35.689です。
次に「真北」ボタンをクリックして北の方角を指定します。
あらかじめ真北に線を引いておいてから上記ボタンで線の位置を指定する感じです。
「確認」ボタンを押すと高さと方角の立体図が表示されるのでイメージ通りかチェックします。
日影図、等時間のチェック
「日影図」ボタンを押すと1時間とか30分毎の日影の推移をチェックすることができます。
例えば赤い★の位置ですが、赤線の10.5(10時半)の時点では影がかかっていませんが、その後影がかかり、青線の13.5(13時半)の時点でまた影がかからなくなってます。したがって少なくとも影がかかるのは3時間未満であると推定されます。
上記はあくまで概念であり日影規制の検討をするうえでは正直それほど重要ではありません。
今回の例ですと隣地境界線から5m~10mの範囲で影を落としていいのは5時間以内と、隣地境界線から10mを超える範囲で影を落としていいのは3時間以内という2点をチェックするのが重要となります。
それをチェックするのが「等時間」ボタンとなります。
3時間影を落とすエリアをチェックするのは「3.0時間」ボタンで5時間の場合は「5.0時間」ボタンで、それぞれ押すと下記のようになります。
隣地境界線から5m~10mの範囲で影を落としていいのは5時間までですので、5時間影を落とすエリアが5mラインの内側ならOKということになります。
同様に3時間影を落とすエリアが10mラインの内側ならOKです。
従って今回作成した建物でしたら日影規制に引っかからないということになります。
具体例
例えば同じ建物の高さを20mに伸ばしてみた場合でも日影規制には引っかかりませんでした。
次は建物の高さは11mのままですが建物を少し隣地境界線近くまで広げてみると5mラインに引っかかってしまい日影規制に引っかかってしまいました。
こんな感じで必ずしも高い建物を建てる=日影規制に引っかかるってわけでもないので色々と検証してみるのも面白いかと思います。
まとめ
今回は日影規制の概要と確認方法について記載してみました。
土地購入を検討されている方は少なくとも宅建レベルの知識でいいので検討している土地が日影規制の対象か否かだけでもチェックしたほうがいいです。
自分でCADソフトを使いこなしてチェックできるようになると検討の幅が広がってよいかと思います。日影規制の概念とソフトの使い方さえ身に着けてしまえば実はそれほど難しいことではありません。
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